洗濯おばさんは、すっかり元気になりました。笑い声も、足音も、いつもの調子です。けれど設計おじさんは、まだ本調子ではありません。眠る時間が長く、動きもゆっくりです。同じ感染でも、回復曲線は一致しないのですね。そこでハクは、提案しました。食糞をおすすめしてみました。遺伝子先生は以前、こう説明してくださいました。「ハムスターの食糞は、未消化の栄養やビタミンB群を再吸収するための生理的行動だ。特に体力が落ちているときには、効率的な栄養戦略になる」と。合理的です。排出物の再利用。循環型の身体設計。
ですからハクは、設計おじさんにも有効ではないかと考えたのです。弱っているなら、再吸収という選択肢もあるのではないか、と。しかし、断られました。人間には、人間の衛生観念と文化的規範があります。栄養効率よりも、心理的抵抗のほうが優先される場合もあるのです。生物としての合理性と、社会的存在としての合理性は一致しません。
ハクは、お部屋に戻りながら考えました。良かれと思っての提案でも、受け入れられないことはある。それは否定ではなく、前提の違い。設計おじさんには、人間の回復方法があります。ハクには、ハムスターの回復方法があります。それぞれの設計図に従うしかありません。けれど、早く元気になってほしいという気持ちは、共通です。提案は却下されましたが、意図は本物です。
