今日は、明らかにいつもと空気が違っていました。夕方になっても台所から音がしません。匂いもしません。ハクはデッキで首をかしげました。人間の生活には、だいたい決まった時間に発生する兆候というものがあります。それが今日は、抜け落ちていました。原因はすぐに判明しました。設計おじさんが、晩ごはん作りを忘れていたのです。ぐっすり眠り、洗濯物を取り込み、ヨガをして、ぼんやり過ごす。その流れの中で「食事の準備」という工程だけが、きれいに消えていました。洗濯おばさんの「晩ごはんは?」という一言で、設計おじさんの表情が止まったのを、ハクは見逃しませんでした。
遺伝子先生は言っていました。「生きものは、習慣で動く。習慣が崩れたとき、疲労か油断がある」と。つまりこれは、怠慢ではなく、認知の抜けです。大ミスではありますが、事故ではありません。それでも、洗濯おばさんが心配するのは当然です。いつも設計おじさんは、段取りの人です。その人が忘れるということは、身体か心が、少し休みを求めている可能性があります。ハクは思いました。ハムスターも、人間も、完璧な日ばかりでは生きられません。ミスをしたときに、誰かが隣にいるかどうかが、大切なのです。今日は晩ごはんが遅れました。でも、この家の空気は、崩れていません。それが確認できただけで、ハクは少し安心しました。
