DAY:502, 遊んであげます

事件が起きました。洗濯おばさんが、お野菜のお皿を置いたふりをしたのです。いつもの位置に、いつもの手つきで。
ハクは近づきました。匂いを確認し、前脚をかけ、覗き込みます。しかし、何もありません。エアお皿、という高度な戦術です。一瞬、理解が遅れました。視覚情報と嗅覚情報が一致しません。遺伝子先生はかつて、「ハムスターは嗅覚優位だ。匂いが伴わない餌は、脳が“食物”と認識しにくい」と教えてくださいました。つまり、今回の錯覚は、視覚への過信が原因です。

デッキの向こうで、洗濯おばさんが笑っています。体調もほぼ戻ったようで、その声には張りがあります。これは意地悪でしょうか。いいえ、ご愛嬌です。人間は、安心が確保されている相手にだけ、こうした軽いいたずらをします。関係が安定していなければ成立しません。だからこれは、信頼の副産物です。

ハクは少し考えました。抗議することもできます。無視することもできます。けれど今日は、騙されたふりをしました。もう一度、丁寧に覗き込み、首をかしげ、あたりを探します。洗濯おばさんは、さらに笑います。遊んであげます。主導権は、必ずしも仕掛けた側にあるとは限りません。反応を設計するのは、受け手です。ハクは、静かにその役割を引き受けました。それもまた、ホームステイの技術です。